統合失調症は、こころや考えがまとまりづらくなってしまう病気です。そのため気分や行動、人間関係などに影響が出てきます。統合失調症には、健康なときにはなかった状態が表れる陽性症状と、健康なときにあったものが失われる陰性症状があります。 陽性症状の典型は、幻覚と妄想です。幻覚の中でも、周りの人には聞こえない声が聞こえる幻聴が多くみられます。陰性症状は、意欲の低下、感情表現が少なくなるなどがあります。 周囲から見ると、独り言を言っている、実際はないのに悪口を言われたなどの被害を訴える、話がまとまらず支離滅裂になる、人と関わらず一人でいることが多いなどのサインとして表れます。早く治療を始めるほど、回復も早いといわれていますので、周囲が様子に気づいたときは早めに専門機関に相談してみましょう。
統合失調症とは

- 幻覚(幻聴、幻視、幻嗅、幻味、幻触など)
- 妄想(奇異な傾向があり、明らかに信じがたい思い込み)
- 意欲の低下
- 感情表現の減少
- 計画の立案や問題を解決する力の低下
- 奇異な行動や支離滅裂な発言
薬物療法と併用する治療法
統合失調症の治療は、抗精神病薬をベースにした薬物療法を維持しながら、平行して薬以外の治療法が必要となります。患者さんは、発病したことで精神的に傷がつき、自信や自尊心を失っていることが多いです。また、学校や職場、家庭で生活するための機能や認知機能が低下しているため、人とのつき合い方や情報の受け取り方が適切にできないなど、問題を多く抱えています。このような精神的・社会的な困難は、薬だけではなかなか改善できないため、薬以外のさまざまな治療法を併用する必要があります。薬と併用して行う治療法は、大きく分けて「精神療法」と「心理社会的療法」の2つです。精神的な面からのサポートと、社会生活への適応面からのサポートは、患者さんの症状や状態に合わせて行われます。普通、実施時期は急性期の後半ころから治療のプログラムをつくり、回復期から安定期にかけて、治療法を組み合わせて行われます。薬物療法と併用することによって、再発率が低下することがわかっています。薬以外の治療法には、次のようなものがあります。
【精神療法】
精神療法とは、医師(精神科医)がいろいろな方法で、患者さんに働きかけを行う治療法のことをいいます。その方法には、精神分析療法、催眠療法、自律訓練法、森田療法などさまざまありますが、統合失調症の場合は「支持療法」と呼ばれる方法で行います。支持療法は、患者さんを精神的にバックアップする一種のカウンセリングです。患者さんが、日々の生活の中で感じている不安や、悩み、孤独感、心配ごとなどについて一緒に考え、解決の糸口を探していく作業のことです。
この療法は、あくまでも会話(言葉)を介して行われ、医師と患者さんとのコミュニケーションによって成立する治療ですので、お互いに相性も大切になります。支持療法の目的は、解決策を見つけることではなく、患者さんの不安解消や精神の安定をはかることにあります。したがって、患者さんが医師とやりとりする中で、不安が解消されたり、心が落ち着いてきたりしたら、支持療法の効果が現れてきたものと考えてよいでしょう。
医師は面談や診察で患者さんと会うときは、常に支持療法の観点から、さまざまな話しをしていきます。例えば、患者さんの中には「自分は統合失調症ではない。だから薬も必要ない」と考え、薬を飲みたがらない人がいます。こういう場合、いかに患者さんに「自分が病気である」ことを理解してもらうか、つまり「病識」をもっていただくか、というお話をしていきます。例えば、夜眠れなかったり、疲れたり、周囲となじめず孤独感を感じているような患者さんの場合、どうしたらそれを治せるか、という角度から話を進めたりしていきます。あるいはまた、幻聴が聞こえたり、被害妄想に陥っていたりする患者さんには、そのことの善し悪しよりも、いま自分がどんな環境にあるのか、家族との関係はどうなのか、といったような患者さん自身の状態を理解してもらうように話をすることもあります。
患者さんの病気には、家族など身近にいる人の精神状態が大きく影響します。統合失調症に対する社会の誤解や偏見が根強くあって、家族は不安や問題をかかえていることが多いものです。家族に対しても医師のバックアップが必要ですので、患者さんへの接し方、患者さんを抱えているために起こるトラブルやストレスがあれば、どんなことでも話の中で医師に伝えることが大切です。悩みや問題はさまざまで、病気によるトラブル、薬の副作用、家庭環境、本人の性格、人間関係などの要因が複雑にからまり合っています。したがって、医師は面談している短い時間の中で、患者さんの表情やしぐさ、何気ない世間話などから、背景にあるいろいろな要因を探り、医師の目で分析し、整理しながら話していきます。支持療法は、医師と患者さんのコミュニケーションの積み重ねによって、より適切なカウンセリングが出来るのです。
このほかの精神療法として「ピアカウンセリング」というのがあります。“ピア”とは“仲間”という意味で、患者さん同士が話し合う療法です。患者さんにしか分からない悩みや体験を共有したり、克服した人の体験談を効いたりすることで、回復への希望をもってもらうことが目的です。
【作業療法とレクリエーション療法】
作業療法は、リハビリテーションとしては長い実績があり、長期入院の患者さんや退院後のデイケアなどでも、中心的なプログラムです。作業療法の目的は、障害を改善し、患者さんのQOL(生活の質)を高めるところにあります。統合失調症においては、精神状態の安定や対人関係の改善をはかりながら、基本的な日常生活や社会生活への援助を行います。具体的な技能を訓練する生活技能訓練(SST)と比べると、作業療法にはレクリエーションや趣味的な楽しみの要素もあって、体を動かすことが中心になります。具体的には、次のようなことを行います。
- ・レクリエーション(絵画、陶芸、木工、室内ゲーム、料理、散歩など)
- ・室内での作業(造化作り、袋詰め、折り箱作りなど簡単な作業)
- ・屋外での作業(園芸、農作業など)
- ・その他(パン作り、印刷、クリーニングなど。これらの設備をもち、実際に作業を行っている施設)
この作業療法は、社会復帰に役立つ職業技能を身につける訓練ではなくて、あくまでも患者さんが「より良い生活を送る」方法を、療法を通して身につけることが狙いです。中には「ゲームをしたり、絵を描いたりすることが、どうして治療になるのか?」と思われる方もいますが、統合失調症という病気は、遊んだり楽しんだりする喜怒哀楽の感情が乏しくなる病気ですので、もう一度ゲームや絵画などを通して、楽しんだり、熱中したり、充実感や達成感を味わうことができたら、それが治療効果となって、健康な心を取り戻すことにもなります。したがって、自分が興味を持てそうなことから始めるのが良いのです。実際の作業療法は、患者さんの症状や回復状態に合わせて、次のようないろいろな目標設定ができます。
- ・毎日決められた時間に参加することで、病気のために不規則になっている生活のリズムを改善する。
- ・他の患者さんと交流することによって、苦手としている対人関係を経験したり、協調性を学ぶ。
- ・一つの作業を続けることによって、持久力や集中力を学び、まとまりにくい思考や行動を調整する。
- ・作業に熱中することで、幻聴に気をとられる時間を少なくする。
以上のような目標を掲げても、実際はなかなか思うように事が運ばないこともあります。最初は、勧められて何となく始めてみたところ、そのうちに居心地がよくなり、作業がおもしろくなって、やがて不安感や憂うつ感がやわらぎ、幻聴が聞こえてきても気にならなくなる、というところまでくれば効果が実感できるようになります。「つまらない作業ばかりやって、何の役に立つのだろうか」と思いながら、ただ無理して仕事をこなすだけなら意味がありません。強制的な作業は、ストレスとなって逆効果になります。作業療法は、ストレスに耐える訓練ではなく、不安や悩みを自分でうまく受け止めて、自分なりに解決する方法を体得するところに目的があるのです。
【生活技能訓練】
生活技能訓練は、SST(Social Skills Training)と略語で呼ばれます。患者さんが社会で自立した生活が送れるように、日常生活のさまざまな場面を想定して再学習し、学んだ事を実際の生活の場で応用できるようにトレーニングします。SSTは、次のようなスキル(技能)になっています。
- ①日常生活技能…食生活や身だしなみ、金銭管理などを行うために必要な技能を身につけます。
- ②疾病自己管理技能…服薬を正しく自己管理し、副作用や注意すべき精神症状を把握する技能を身につけます。
- ③社会生活技能…日常生活に必要な道具を使う技能、対人情緒的な技能を身につけます。
具体的には、食事の作り方や後片付けをする、お風呂に入って体を清潔にする、衣服をきれいに保つ、洗濯をする、お金の管理をする、薬をきちんと飲む、自分の症状を医師や相手に伝える、人とのつき合い方、挨拶の仕方、余暇の過ごし方、地域生活への再参加の仕方、愛情や結婚生活、友情の維持を目的とした対人関係の作り方などを習得します。
トレーニングの方法は、まずビデオなどで必要な知識や対処の仕方を学び、ロールプレイングを通して適切な行動を学びます。次に、実践の場面に移し、実際にその場で練習をするといった方法で進められます。毎日の生活で必要な身の回りのことをトレーニングして、苦手な状況に慣れ、患者さんが社会で自立した生活ができるようにしていきます。
【心理教育的家族療法】
この療法は、患者さんの家族に対して、医師や医療スタッフが、統合失調症の正しい知識や疾患特有の問題行動などについて、対処の仕方や教育をおこなうものです。患者さんが入院後、比較的早い段階から始めたり、回復期から始めたりして、数回に分けて行われるのが一般的です。家族が、統合失調症に対して理解を深め、患者さんとの接し方を学ぶことによって、病気に対する不安がやわらぎ、患者さんとの関係もよくなるケースが多く見られます。それによって、患者さんの再発予防や社会復帰にも効果がります。さらに、同じ患者さんを抱える家族が、お互いに支え合う場として、患者さんの家族が複数参加する「家族グループ」もあります。家族教室、家族会、家族ミーティングなど、いろいろな名称がつけられています。
【認知行動療法】
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この治療法は、ある出来ごとに対する患者さんの解釈の仕方に介入し、さまざまな手法によって、受け止め方や行動を変えていくことによって、回復につなげていく療法です。治療の対象は、患者さんが苦手としているさまざまなことです。たとえば、対人関係、服薬の自己管理、好きでない状況を避けること、精神症状への対処の仕方、認知機能の改善などです。ただし、テーマによっては、生活技能訓練(SST)や、包括型地域生活支援プログラム(ACT)によって治療を行っていきます。
また、精神症状の対処については、症状別のアプローチが開発されています。例えば、幻覚や妄想は、頭の中から聞こえてくる声が真実だと思って「恐い」「監視されている」と受け止め、その場から逃げ出したり、奇異なことを話したりしますが、しかし別の解釈に切り替えて受け止めることができれば、その後の行動も改善されていくはずです。認知行動療法は、患者さん側に立って、症状を客観的に受け止められるように働きかけて、症状の改善をめざします。
【認知矯正法・認知適応法】
認知矯正法とは、認知機能そのものに働きかけて、低下した機能の改善をめざすトレーニングです。実際に、ドリルやコンピューターソフト、ゲームなどを使って学習します。簡単な課題から少しずつ難易度をあげていき、課題が正しくできたときには褒めるなどして、教育心理学で重視される内発的動機づけを高める工夫をしながら、認知機能の改善をめざします。内発的動機づけというのは、その課題を行うこと自体が楽しいといった、内面から生じる動機づけです。具体的には、患者さんがやり甲斐があると思うゲームで遊び、そのゲームの難易度は患者さん自身で調節できます。そして、グループミーティングを行って、ゲームに取り組むことが、日常生活の行動の改善とどうつながるのか、などについて話し合いをします。
次に、認知適応法については、患者さんが生活する環境に修正を加えて、認知機能の障害を補うものです。たとえば、記憶に障害があって、歯磨きや洗面を忘れてしまう患者さんでは、洗面所に歯磨きや洗面の手順をわかりやすく描いた図やメモを貼っておきます。生活の環境をこのように変えることで、認知機能への負担を軽減し、患者さんは日常生活が送りやすくなり、症状の軽減や社会機能の改善効果が期待できます。
【デイケア】
これは、通院中や退院した患者さんを対象にしたリハビリテーションで、「生活のリズムを取り戻したい」「自宅以外にも過ごす場所が欲しい」「人付き合いに自信を付けたい」「仕事に通う体力をつけたい」などの目的で通います。デイケアの大切な要素は、人とのふれあいです。グループの中で、自分の意見を伝えたり、話し合ったり、また仲間と一緒に楽しんだり悩んだりする経験の中で、患者さんは対人関係を自然に学んでいきます。毎日でなくても、通ううちに少しずつ規則的な生活が身についていきます。また、人と会い、体を動かしたり、作業したり、グループ活動していくうちに、気持がだんだん外の世界に向いていき、次のステップに移りやすくなります。
- ・プログラム……プログラムには、病院生活技能訓練(SST)、ゲーム、スポーツ、レクリエーション、話し合い、料理、手芸、園芸、陶芸、創作、季節の行事などがあります。すべてのプログラムをする必要はありません。自分が楽しくできることから始めます。病院でのデイケアは、医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理士などがチームを組んで行っています。
- ・場所……病院、診療所(精神科クリニック)、精神保健福祉センター、保健所などで行われています。自宅からどのようにして通うのか、徒歩、自転車、バス、電車など、施設によって異なりますが、交通機関を使うのも一つのリハビリテーションになります。
- ・利用時間……病院で行われているデイケアは、だいたい1日6時間、週3~6日程度です。保健所のデイケアと比べると、回数が多くなっています。施設によっては、夕方から夜にかけて行うナイトケア、朝から夜まで行うデイナイトケアもあります。
- ・規模……大規模デイケアでは1日50~70人、小規模デイケアでは1日30人以内です。規模によって、医療費の点数が違います。
- ・費用……保健所では無料ですが、その他の施設では医療費の個人負担があります。
- ・利用期限……施設によってさまざまですが、特に期限を設けないところも増えています。デイケアを必要とする期間は、人によって異なりますが、半年か1年ごとに継続するかどうか決めていきます。
- ・窓口……主治医と相談して、適当な施設を探してもらうか、または地元の保健所や生活保護担当窓口、精神障害者家族会、精神保健福祉センターなどで地域の施設を紹介してもらいます。